海國冐險奇譚新造軍艦

故勝海舟翁の長歌

海原に、たてる御國は、おほみふね。さはにあらずば、ものゝふの。まかみたけびて、くるへども。あしまのかにの、天の下。横にし行かむ、足をなみ。千里に羽うつ、大鳥の。翅をいたみ、うち羽かき羽うちもあへず、とつくにの。かたきのために、おほあみに。かゝりやすらむ、かけまくも。あやにかしこき、古を。思ひもみずや、白鳥の。おほみ御~は、鳥が啼く。吾妻の國の、みいくさに。相模の海の、大浪の。磯うつ音は、いかづちの。聲と聞くまで、吹ふせる。風のまに/\、大船の。たゆたふみれど、おほみ身に。たちとりおばし、おほみ手に。弓取もたし、まつろはぬ。えみじををさめ、たらしひめ。ますらたけ雄に、先だちて。八重のしほ路を、みゝづから。わたらひたまひ、虎ほゆる。もろこし人の、今の代も。おびゆるまでに、こまくだら。うちびなびかしゝ、みいさをを。おもひも出ず、いたづらに。かくて過なば、いつの日か。御國のみいづ、ことくにゝ。おもひしらせむ、よしをなみ。これをおもへば、今もかも。胸とゞろきて、かけはきの。劔のたかみ、とりしばり。いきどふろしも、世の人の。あげつろふなる、くさ/゛\の。ことわりさへも、耳なしの。山の翁に、あらねども。わかちもあへず、くちなしの。かげにかくろひ、のちの世に。志のばむ友を、またむとぞおもふ。

甲子初秋於~戸之豐蘆しるす 安房守義邦

inserted by FC2 system